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奇跡の起こるとき

2014年6月19日

EA057_L
不妊症で手術というのは、よくよくのことである。丹念に検査し、月日をかけて治療し、「もうあとはこれしかない」と判断したとき初めて患者さんに相談をもちかけるものだ。
ところが、「手術」と聞いただけで、ピタッと来なくなる人がいる。恐怖心、あるいはアレルギーというべきか、頭から手術ぎらいなのだろう。
逆に「手術は絶対にイヤです」といいながら、相変わらず熱心に通院してくる患者さんもいる。
「あなたの場合、もはや手術以外に方策はないのですよ」と申し上げても、「いえ、でも何かの拍子に奇跡が起こるかもしれませんし……』とおっしゃる。こうなるとそのまま治療を続けるほかない。

だが、実は奇跡が起こることもないわけではない。たとえば、ほとんど排卵のなかったJ子さんの場合I。
もはや手術しかないと説明したとき、J子さんはあっさり了解した。ご主人もやってきて協力った。はればれとした表情をみせた。マナイタの鯉、すっかり心を決めて、むしろ不安よりも精
を約束した。そして、その準備のための一、二週間.:…。J子さんは以前に比べて急に明るくな神的な安定状態が訪れたのだろう。
そろそろ手術の日どりを決めようと思っていた矢先、突然J子さんに排卵があった。あれだけ長い間、手を尽くして治療し、投薬したのに何の反応も示さなかったJ子さんにI。
「先生、こんなことって、あるんでしょうか」
「うlむ、まあ手術は保留して、ちょっと様子をみてみましょう」
だが、様子をみる必要もなかった。J子さんは、たちまち妊娠したのである。それを検査で確認すると、J子さんは跳び上がって狂喜した。
タネ明かしを一つ。「手術予告」というショック療法の効果もさることながら、それによってJ子さん夫婦の性生活に少なからぬ変化が訪れたのである。いくらセックスに励んでも赤ちゃん
ができない、そんな夫婦生活の繰り返しが何年も続き、セックス自体を無意味にさえ思うようになっていた。それが、「手術」の声を聞いて一気にリラックスしたわけだ。
「ええ、やはり、そりゃもう、〃妊娠するため″なんてことは全く考えないで、本当に燃えて、それに打ちこんだという感じで……」
耳まで赤くして口ごもりながらJ子さんが白状する。そう、それがよかったのだ。なによりも情緒たつぶりに性生活を楽しむべし。赤ちゃんは、結果として訪れてくるもの。決して、奇跡
ではないのである。

参考: